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リッこら

Re:ALL製作委員会は一枚岩ではありません。日々委員どうしが小首を傾げ合いながら 冊子を作っています。彼らは一枚岩というよりはむしろ、ガラクタの山のようです。どんなガラクタが埋まっているのか。とにかく委員それぞれが好きなものを書きたいということで始めたコラム、気が向いたら読んでやって下さい。ひょっとしたら、使えるガラクタがあるかもしれません。

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満員電車奮闘記

今年の三月下旬、地方から上京してきた。小さな田舎町出身の私は、当初、夢の都会暮らしに胸を躍らせていたものだった。しかしこちらで暮らし始めた途端、その期待はもろくも崩れ去った。現実はそう甘くない。大都会・東京の放つ圧倒的なオーラを目の前にして、私はただ立ち尽くすしかなかった。それから約三カ月が経つ現在でも、以前の暮らしとのギャップに狼狽えることが多々ある。
東京と田舎の違い。挙げればきりがないが、一番違うのはやはり人の数だろう。ちなみに、私の実家のある町の人口は約六千人である。そんな僻地からやってきた私であるから、上京して初めて満員電車というものを経験した。今でも初対面時の衝撃は忘れられない。今回は、そんな田舎者の私と満員電車との出会いをここに記したいと思う。

一限の必修に出席するべく駅のホームで待っていた私に、その時はやってきた。目の前でゆっくりと停車した電車の中には、信じられないくらいの数の人が収まっていた。噂には聞き及んでいた満員電車だったが、ここまでとは思っていなかった。音を立ててドアが開く。堰を切ったように人が溢れ出す。これで少しは人が減るはずだと私は高を括った。しかし実際は奥に乗っていた人を通すためにドア付近にいた人々が降りていただけであり、人の流れが止まると大多数の人が車内へと大急ぎで戻っていったのだ。……おいおい、そりゃないぜ。これじゃあさっきと全然変わってないじゃないか。数人が降りたとはいえ、空いているスペースはほとんどないように思えた。この時点でかなり怖気づいていた私は、足が直ぐに動かない。そんな私を横目に、後方にいた勇者たちは次々と乗り込んでいく。勇者といっても、この車両は女性専用車なので皆さん女性である。それでもアメフト選手さながらのタックルをかましつつじりじりと車内へ身を沈めていく。もう私は挑戦者からただの傍観者へと成り下がっていた。キャリアウーマンらしき女性が電車に片足をかけ、もう片足のピンヒールで必死に踏ん張りながら車内に滑り込んだ時はもはや拍手を送りたいほどだった。そうしてドアは閉まり、電車はゆっくりと去って行った。ホームに私だけを残して。……完敗だ。やはり何年も東京という都市に揉まれてきた猛者とぽっと出の田舎者とじゃ力量が違う。私は己の無力さを痛感した。しかしいつまでも打ちひしがれている場合ではなかった。なんといっても一限必修がかかっているのだ。私は気を取り直し次の電車を待った。
一分後にやって来た電車は、運よく先ほどよりも混んでいなかった。ドアが開き、数人が降り、数人が中に戻る。それでも余裕で乗れるだけの場所はあった。緊張しつつ車内に足を踏み入れる。……なんだ、案外いける。さっきのが異常だっただけか。そう安堵した私だったが、そうはいかなかった。次の瞬間、すごい勢いで背中を押され、ドア付近にいた私は一瞬で中ほどへ追いやられた。そこはまさしく戦場だった。とっさに周りを見回したが、掴まれるようなものはない。八方塞がり。四面楚歌。……降参だ、こちらに勝ち目はない。しかし、白旗を上げている私をあざ笑うかのような車掌の「もう少しお詰めくださーい」の声。もう泣きそうだった。お母さん、東京は怖いところです。
それから目的の駅に着くまでのニ十分もの間、私はこの苦行に耐え続けた。無理な体勢を強いられたために、運動不足の私は翌日筋肉痛になった。

たかが満員電車くらいで何をそんな大げさな、と思う人もいるかもしれない。だが当時の私にとって満員電車はかなりのカルチャーショックで、東京そのものの象徴のようにも思えたのだ。人がたくさんいる。その状況に慣れていなかった私は、それを怖いことのように思ってしまった。まあ今でもそう思うことはある。でも、それはおそらく正しくない。東京には東京のいいところがたくさんあって、それは自分で探しに行かないと見つけられない。怖いからと家に閉じこもっているだけではだめなのだ。満員電車を涼しい顔で乗りこなすくらいの人物にならねばならないのだ。そうなれば、東京に対する見方がもっと変わってくるのではないか。
そう信じて、私はこれからも満員電車に戦いを挑む。

髙橋倭子
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