生きる上で「プロフィール」を書かされる場面は、結構多い。
この前バイト先(某塾)で、チューター紹介の掲示を書かされたのだが、私はこれが嫌いである。
趣味・特技欄に何を書けばいいのか分からない。
「読書」?「映画鑑賞」?
つまらないにもほどがある。(しかし私の趣味はまんま読書と映画鑑賞である。)
まあこれが身内間の自己紹介なら、正直かつ直球に「男同士の綿密な絆を描くドラマの消費活動(メディアは問わず)」とか書いておけば円満解決だが、公の場でそれはできまい。
結局、「海外刑事ドラマの鑑賞!」とか、「おいしいお店探し!」とか、きゃぴっとした感じ(?)でやり過ごした。我ながらイラッとするプロフィールである。
しかし、最近私はプロフィールの途方もない重要性に気付いてしまった。
森辰徳、という男をご存知だろうか。
いや、絶対知らないと思う。このブログを読む30人中30人知らないだろう。もしかしたら100人中1人は知っているかもしれないが、それはもはや誤差だ。
彼は、「テニスの王子様(通称・テニプリ)」という漫画に出てくる、二次元のキャラクターである。
物語の初期に主人公たちと対戦する不動峰中のレギュラー選手で、ダブルスプレイヤー。中学二年生の男の子。
漫画を読んでいて得られるのはこの情報くらいで、正直私は彼をよく知らなかった。人気キャラクターがうようよいるテニプリ界の中で、彼は滅茶苦茶地味な立場にいる。セリフも少ない。出番も少ない。グッズもほとんど出ていない。露出が少ないがゆえ、どんなキャラなのかもよくわからない。
しかし、しかしである。
そんな辰徳くんであるが、原作者の許斐剛先生はきちんと、公式キャラブックにプロフィールを掲載している。
それがもう輝いているのだ。
好きな食べ物:そば屋のカレーうどん
趣味:古本屋巡り
今一番欲しい物:絶版になった福永武彦の本
特技:本の朗読(賞をもらったことがある)
………………………なにこれ。
私こういうの、………………だいっっっっ好きです。
そば屋って、そこでうどん食べるの?しかもそれが、あえて明記するほどの好物なの?この世の中いろんな食べ物があるのにも関わらず?うどん屋のカレーうどんじゃ何かが足りないの?気分的な問題なの?
福永武彦って、え、だって、あの「愛と孤独の文学」を中学二年生にして嗜んでいらっしゃるの?感情が過剰なあの文体を好んでいるの?男女の性愛をひたすら描き続けるあれを?『愛の試み』『草と花』とかが家の本棚にあるの?絶版本が欲しいってことは、もうすでに既刊はほぼコンプリートできてるってことだよね?他に何を読むんだろう、連城三紀彦?
そしてさらに、本の朗読で受賞したことまであるの?どうしよう、もし読んだ本が宮沢賢治の銀河鉄道とかサンテグジュペリの星の王子様とかだったら、私は即彼に結婚を申し込みたくなる……どうしよう……。
私の中で、不動峰中のモブ選手だった辰徳くん(昔は下の名前すら知らなかった)が、ちょっと不思議な感性を持つテニス部内文学男子という、素晴らしく興味好奇心をそそられる存在に変わった瞬間である。
このプロフィールを読み、彼の隠れた魅力にもだえ苦しみ、とりあえず私はその日、大学図書館で福永武彦の全集本を借りて帰ることにした。そうせずにはいられなかった。
私も彼みたいにキレのあるプロフィールを用意したいものだ。
くすっと笑えてツッコミどころがあって、人となりやセンスが透けて見えるような何かを……。
プロフィール、侮れないものだ。
(近江由圭)
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