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リッこら

Re:ALL製作委員会は一枚岩ではありません。日々委員どうしが小首を傾げ合いながら 冊子を作っています。彼らは一枚岩というよりはむしろ、ガラクタの山のようです。どんなガラクタが埋まっているのか。とにかく委員それぞれが好きなものを書きたいということで始めたコラム、気が向いたら読んでやって下さい。ひょっとしたら、使えるガラクタがあるかもしれません。

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物語という旅




 こんにちは。Re:ALL一年の栗山です。早くも文キャンの空気にも慣れ、とても充実した毎日でございます。
 さて、突然ですが皆さん…旅に出ませんか?この質問をしたら、おそらく殆どの大学生が「講義あるし時間ねえよ…」というような感想を抱くでしょう。当然ですよね。例外もあるとはいえ、一泊二日の旅ですら最低でも一日分の授業を全て切ることを覚悟しなければなりません。しかも一泊二日では自分のやりたいことも満足にできない場合が多いため、実際にはもっと多くの日程を確保する必要があります。それならば夏休みまで待てばいいじゃないか、と思う方も多いでしょう。しかし旅に行きたい人はそんな長い時間待てないのです。すぐそこにある欲望、それを求めてしまうのは生物として自然なことです。だとすれば一体どうすればいいのか?現実の経験の代替となるもの、そう、物語です。物語の世界にダイブしようじゃありませんか。

―①古典文学編
  まずは古典文学の世界でオススメの物語を一つ。菅原孝標女の『更級日記』。日記とはいえ、平安時代とは生活、風習が全く異なる今の我々は、『更級日記』を物語とほとんど同じような感覚で読むことができます。『更級日記』は受領階級の父の任地国である、上総国から京に帰る道々、京に帰ってからの生活を、現在の自分が過去の自分を回想するという形で書かれる、日本古典史上屈指の名作です(と僕は思っています)。源氏物語に陶酔した少女時代、そんな少女時代の自分をひたすらに悔やむ現在の自分。そのような作者の内面が表れやすい構図もさることながら、一話一話の状況描写がとてもうまく、当時の雰囲気が文字を通して読者の心に響いてきます。
高校時代にほぼすべてを現代語訳で、加えて重要部分を古語で読んでいました。友達には「そんなの読んで何が楽しいの?」とよく言われたものです。しかし、この物語では、平安時代の空気に触れながら旅をしているかのような感覚を味わうことができます。
 個人的に気に入っている場面は多々あるのですが、特に情景描写にすぐれている場面を一つ選んでみました。

富士の山はこの国なり。わが生ひいでし国にては西面に見えし山なり。その山のさま、いと世に見えぬさまなり。さま異なる山の姿の、紺青をぬりたるやうなるに、雪の消ゆる世もなく積もりたれば、色濃き衣に、白きあこめ来たらむやうに見えて、山の頂の少したひらぎたるより、煙は立ちのぼる。夕暮れは日の燃え立つも見ゆ。

訳:(あの有名な)富士の山はこの国、駿河にある。私が成長した国(上総)からは西に見えた山である。その山の様子は、全く世間に類のないほど素晴らしい姿である。(他の山とは)異なった山の姿で、(まるで)紺青を塗ったようである上に、雪が消える時もなく積もっているので、(それはちょうど)濃い紺青色の衣の上に、白い衵を着たように見えて、山の頂の少し平らになった所から、煙は立ちあがっている。夕暮れには火が燃え上がるのも見える。
                       参考:新明解古典シリーズ6 桑原博史
注:衵とは衣の上に着る童女の普段着です。単のように重苦しいものではなく、子供でも動けるように比較的軽く作られています。
 僕は富士山を表現する文章で、ここまで鮮明に情景を想起させる文章をいまだかつて見たことがありません。当時(およそ十一世紀)の富士山は活火山だったのだ、という歴史的事実の確認もさることながら、衣と衵の比喩によってまるで富士山を女性のように見立てているのです。その芸術的なセンスに驚くばかりですね。
  このほかにも、『更級日記』に収録されている話からは著者の作り出す多彩な風景や当時の風習、信仰、悩み、そして、“千年の時を越えても変わらないもの、逆に一変してしまったもの”など様々な事柄を知ることができます。少し変わった平安時代への旅へ、皆さんも一緒に行こうではありませんか!

―②マンガ編
 次に紹介するのはマンガの世界です。現代、特に日本ではたくさんのマンガが世の中に溢れています。正直どれから読めばいいのか迷っている方も多いと思います。今回は僕のコラムの主題に従い、物語の世界観に飛び込める作品をセレクトしました。
 その物語のタイトルは『マギ』。大高忍先生により少年サンデーで連載されている作品です。『マギ』の世界は中国風、オリエント風、ヨーロッパ風などの数多くの国々と、ダンジョンと呼ばれる数多くの迷宮が存在する世界です。様々な国家が乱立している世界で、アラジン、アリババ、モルジアナという三人の主人公たちが時に分裂しながらも力を合わせ、様々な困難を乗り切っていきます。それに加え、世界史上にかならず存在したに違いない、と思わせられるような国家間の策略の掛け合いなどの要素も多く含む作品となっています。
このほかにも『マギ』を面白くしている要素は枚挙にいとまがありません。その中でも最も『マギ』を面白くしている要素とは何か。それこそ、僕は魔法のような異能力だと考えています。『マギ』における魔法の類はとても複雑な原理で語られており、それだけでもう一つコラムがかけてしまうほどですが、マギにおける魔法には、簡単に言うと、自分の体内にある魔力に加え、自然界に漂い、世界のあらゆる現象を起こす源となっているルフというものを上手に扱って初めて使用できるという設定付けがなされています。主人公の三人や主人公の仲間たちが、炎や氷、雷といった魔法を駆使して数多くの敵と戦っていくということが、この物語の一番の醍醐味といえるでしょう。このような描写や表現は読む者にスリルを与え、自分がその世界に没入しているような感覚を与えてくれます。主人公たちはどのような方法でこの窮地を脱出するのだろう。この敵ちょっと強すぎじゃない?僕も読んでいて何回もこのような感想を抱きました。
そして『マギ』を際立たせている理由の一つが、様々な要素が複雑に絡まりあった世界や設定です。先ほど挙げた魔法に加えて、世界観、タイトルでもある「マギ」についての謎、各国の思惑など。とにかく『マギ』の世界観は非常に複雑な要素で構成されており、時に作者の設定が簡単に理解できず、頭を使って読まなければならない時もあります。しかし、このように世界観について考えることでさらに物語に没入し、まるで物語の世界を旅しているような感覚を味わうことができるのです。
③総括
 ということで『更級日記』と『マギ』の二つの物語の紹介でした。どちらの世界も現代とは全く異なる様相を呈しています。だからこそ現実世界を考えることなく、物語に没入することができます。主人公や登場人物に感情移入をすることにより、あたかも自分がその物語の一つのピースであるかのような感覚をきっと味わうことができるでしょう。そこで得た経験は似非経験ではありません。登場人物を通して得た本物の経験です。
 当然ここでは挙げきれなかった数々の物語が世には存在します。自分の興味があるものに手を伸ばしてみてはいかがでしょうか。活字の硬い物語が嫌いな場合でも、興味のあるマンガを手に取り、物語に全力で没入することで、物語への旅をきっと楽しむことができます。

                           栗山 直樹





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