エリーへ
こんにちは。まさか君に手紙を書く日が来るなんて、思ってもいなかったから、なんか照れるな…。君はどんな顔をしてこれを読んでいるんだろう。拙い文章だけど、どうか最後まで読んでほしい。
実を言うと僕は、初め君のことがあまり好きではなかったんだ。だって君は変に堅苦しくて、しかも僕のことを威圧してくるから、僕は君にどう接していいか分からなかった。でもちょうど中学生になった時、嫌でも君と毎日過ごさなければならなくなった。まあ大人の都合だから僕は従うしかなかったんだけど、でも最初は本当に嫌で嫌で仕方がなかったのを今でも覚えている。できる限り君と関わらないようにしてきたのに、君と毎日過ごすだなんて、想像しただけで眩暈がしそうだった。
でも実際に君のいる毎日が始まると、僕は君のことを誤解していた自分に気付いた。ドアを開けると、君は毎朝僕のことを待っていてくれた。そして、部活の疲労や寝不足でだらける僕の気持ちを引き締めてくれた。僕は君の顔を見ると、背筋がしゃんと伸びて、今日も頑張ろうって思えた。確かに君はちょっときっちりし過ぎているようなところもあったけど、でもそれが君の一番いいところだと思うよ。怠け癖のある僕には、君はとても眩しく見えた。いつからかなんてもう分からないけれど、僕は君に惹かれ始めていた。
高校生になって、僕は君と本当に文字通り毎日一緒に過ごすようになった。大人の都合はもう存在しなかったのに、僕は君のいない生活はもう考えられなかったんだ。中学生の頃は地味だった君が、可愛らしく様々なおしゃれをするようになるのを見ているのも楽しかった。でもそんな時だった、あの事件が発生したのは。
それは、太陽が勢いを増していた、7月の夏休み前のことだった。その日は特に暑くて、拭っても拭っても汗が噴き出てくるような暑さだった。君と僕が一緒にいると、僕の友人が声をかけてきた。「お前ほんといっつもエリーといるよな!軽く驚くレベルだわ。」彼にしてみれば、事実を述べたまでであって、特に悪気はなかったのだと思う。それに、確かに彼の言ったことには何も誤りはなくて、本当にその通りだったのだ。自覚もあった。しかし他人にそれを言われると、僕は急に恥ずかしくなってしまった。自分が何かいけないことをやっているような気持ちになって、それから君のことを変に意識するようになってしまった。次の日から、僕は君と距離を置くようになった。いつものように、ドアを開ければ君が僕を待ってくれていることは分かっていた。でも僕は、どうしてもそのドアを開けることができなかった。君は何も悪くなかったのに、ごめん。
そうこうしている間に、夏休みは過ぎ去っていった。結局僕は君のことを避けたまま、時間だけが流れた。僕は、心にぽっかりと穴が開いているような感覚をずっと抱えていた。君のいない日々は、陰鬱でつまらないものだった。そして新学期の朝が来た。僕は久しぶりに、ドアを開けてみた。恐る恐る、君がいつも僕を待っていてくれたドアを。そこには、以前と同じように、やっぱり君がいた。僕は君に謝らなくてはならなかったのに、何も言葉が出てこなくて、嬉しくて仕方がなかったのに、やっぱり何も言葉が出てこなくて、結果ただ君を見つめて突っ立っていた。すると君は、「しゃきっとしろ」とばかりに僕の背中を叩いて、喝を入れてきてくれた。それは何もかもが以前のままで、僕はいつもの日常が戻ってきたことが本当に嬉しかった。どんよりと曇っていた世界が、輝きを取り戻していった。
この春、僕は大学生になった。地元を離れて東京で一人暮らしを始めた。家族も友人もいない都会での生活は、何もかもがいっぱいいっぱいで、辛いことも多い。でも、僕には君がついている。さあ、クローゼットのドアを開けよう。今日も君が僕を待ってくれているはずだから。エリー、ありがとう。そしてこれからもずっとよろしくお願いします。
シャツの袖に腕を通し、ボタンをきちんと襟元まで留める。
今日も、君との一日が始まる。
吉田 実生
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