花は短し歩けよ「珈琲」
こんにちは。Re:ALL13号を投げ出してまで行ってきた短期留学について……とも思いましたが「メルボルンに行ってきました。楽しかったです。」という小学生顔負けのクソ日記になりかねない。それはマズい。ということで、今回は私がラーメンの次に好きなコーヒーについて書こうと思います。
コーヒーには「過ぎたるはなお及ばざるが如し」を具現化した物質であるカフェインが含まれているのは周知の事実。多くの人が誤解されているかもしれませんが、カフェインは覚醒物質として直接脳に働くのではなく、睡眠を促進する器官を妨害する「引っ越しオバちゃん」のような存在として覚醒を促すことが近年わかってきています。こうした研究によってカフェインの感受性に個人差があること、その結果、不眠状態になる人とそうでない人が生じることが明らかになっているようです。ぜんぶ、体質のせいだ。
どちらにせよ、その覚醒作用的なナニカを用いて眠気を撲殺し、効率よく仕事をしたい時にカフェインが有効なのは常識。願掛け的な意味合いしかないものの、テスト前にリポビタンDをガバガバ飲むのも常識。そう、常識。
そんなカフェイン、一日100~250mg以上の摂取で依存状態になる可能性があります。コーヒーの飲み方によって含有量は異なりますが、インスタントコーヒー1杯のカフェイン量を約70mgとすると、一日4杯以上飲んでいる人は要注意。ちなみに私は多いときで5杯でした。うわっ…私のカフェイン摂取量多すぎ?
依存状態になると、カフェインが切れた時に「離脱症状」が現れます。代表的なものが「頭痛」と「抑うつ」。脳の血管に作用していたカフェインが切れることで、反動的に強い頭痛が襲ってきます。人によっては気持ちが落ち込むなどの抑うつ症状が出るので、余計にカフェインを渇望することになります。うつ状態で依存する、なんとも暗すぎる循環。メンヘラかな?
そんな敵か味方かわからないカフェインの「脳を覚醒させる」働きは、コーヒー愛飲者のために優しく言い換えれば「リフレッシュさせる」ということ。中毒の話をするとどうしてもカフェインが悪者のようになってしまいますが、摂取しすぎに気をつければいいだけのことですね。
さて、このままだとカフェインおばさんになる勢いなので今度こそコーヒーの話をします。「カフェオレとカフェラテの違いって何?」と聞かれたとき、困った経験はありませんか。もしくは、インコの水差しくらいのきゃわいいカップで出されてそれじゃない感。その防止に少しでも役に立つよう、主なコーヒーの種類を挙げていきます。
コーヒーには大きく分けて2種類あります。いびきのような騒音を伴いつつ、ポンプなどで強制的に圧力をかけて短時間で一気に豆から液体を抽出する「エスプレッソ」と、コーヒー粉にお湯を注いで液体を自然透過させる「ドリップ」。カフェインおばさんからひとつ言わせてもらうと、カフェインはエスプレッソの方が少なくなります。程度はわかりませんが。
イメージで言うと、みんな大好きスタバに置いてある機械が「エスプレッソ・マシン」であり、象の鼻みたいなヘンテコな注ぎ口のやかんでくるくる注ぐのが「ドリップ・コーヒー」。パオ。では、それぞれのコーヒーの特徴を見ていきましょう。
「エスプレッソ」式の筆頭はもちろん、その名を背負う「エスプレッソ」。専用のマシンを使い、コーヒー粉に圧力をかけながら抽出する方法を取ります。特徴は30cc程の量と、ヘーゼルナッツ色の泡(ちなみにクレマという)。前述した「きゃわいいカップ事件」は、恐らくこのコーヒーか、次の「マキアート」によるものでしょう。
「カフェ・マキアート」。単純に「マキアート」という場合もあります。エスプレッソに少量のフォームミルク(ミルク感のまったくない、ふわふわした物質)を注いだもの。ちっさい。ちなみに「マキアート」はイタリア語で「染みのついた」という意味。つまりカフェで「じゃあ…マキアートで」とドヤ顔で頼んでいる人は「じゃあ…染みで」と言っていることになるね!楽しい!
「カフェ・ラテ」。エスプレッソに大量のスチームミルク(これは蒸気で温められたミルクっぽいミルク)、そしてフォームミルクを組み合わせたもの。正式には「カッフェ・ラッテ」と呼ぶそうですが、そんなの店員さんに告げるくらいなら、もう死んでもいい。
「カプチーノ」。エスプレッソにスチームミルク、大量のフォームミルクを加えたもの。この説明でお分かりかもしれませんが、「カフェ・ラテ」との違いはそれぞれのミルクの割合のみ。紛らわしさの極み。
「カフェ・モカ」。エスプレッソにチョコレートシロップ、スチームミルクを組み合わせたもの。チョコとミルクの代わりにココアを使うこともあるので、見た目も味もココアに近くなります。コーヒーがニガテな人にもオススメ。これでもダメならココアを飲んで。
「カフェ・アメリカーノ」。エスプレッソをお湯や水で割ったもの。説明を書きながらですが、飲んだことないし、ナニコレ感が半端ない。
以上が主な「エスプレッソ」コーヒー。続いて「ドリップ」式。
「ブレンド・コーヒー」。数種類ある豆を配合して淹れたもの。
「アメリカン・コーヒー」。浅炒りの豆で淹れたもの。軽くてスッキリ。
「カフェ・オ・レ」。何でもいいからドリップしたコーヒーに温めたミルクを合わせたもの。コーヒーと牛乳の割合は1:1。へぇ。
「ウィンナー・コーヒー」。ウインナーは入っていない。コーヒーにホイップクリームを浮かべたもの。あるいは、カップに入れたホイップクリームに熱いコーヒーを注ぎ込んだもの。要はホイップ。
「エスプレッソ」式に比べて説明が簡素なのは、別に迫りくる〆切時間に焦ったとかではなく、「ドリップ」式のコーヒーは主に豆の違いを楽しむものだからです。そうです。もっと細かく見ていくと「何気圧の圧力で」とか「何度のお湯で」とかごちゃごちゃうるさいのですが、これさえ覚えておけば「カフェオレ」「カフェラテ」が大きく違うことは説明できます。
「可否」「可非」「黒炒豆」。コーヒーの当て字は数あれど、唯一生き残った「珈琲」を生み出したのは幕末の蘭学者・宇田川溶菴だと伝えられます。ちなみに彼は「酸素、水素、窒素、炭素、白金といった元素名や元素、酸化、還元、溶解、分析といった化学用語、細胞、属といった生物学用語」(注1)を考案した、なかなかハイセンスな訳者。造語と翻訳の天才って、それはもう辞書並み。
「コーヒー」が「珈琲」という漢字で表記された理由は、コーヒーの木の枝に実った赤い実の様子が、当時の女性が髪に飾っていた「かんざし」に似ていることから。「珈」は髪に挿す花かんざし、「琲」はかんざしの玉をつなぐ紐を表すそうです。なんとも美しい発想で「珈琲」は誕生しました。ちなみにコーヒーの花は白いです。花白く、その実は朱く、豆黒く。
このコラムのタイトルを森見登美彦の代表作「夜は短し歩けよ乙女」から頂戴したのは言うまでもないことで、その森見登美彦も「いのち短し恋せよ乙女」という歌謡曲の一節から小説のタイトルを頂戴したのは言を待たないことであり、このコラムを読んでくださっている読者の皆さんはHIMA NO KIWAMIという点で他の追随を許さないと思われますが、事実、珈琲の花の命は短い。白く可憐な花びらは、たった2日で散りゆくと言われています。(注2) 花の美しさも豆の美味しさも味わうならお早めに、と言ったところでしょうか。
黒髪の乙女ならぬ黒豆の飲み物に、淡い恋心を抱いた春。ということで、ラーメンをご一緒した暁には、コーヒーを飲みにも行きましょうね。
荒井麻友子
(注1:「PaoCoffee【コーヒー教室】珈琲に関する雑学」
http://www.paocoffee.co.jp/zatugaku.html#5)
(注2:Wikipedia「宇田川溶菴」参照
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%87%E7%94%B0%E5%B7%9D%E6%A6%95%E8%8F%B4)
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